「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第105話

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帝国との会見編
<この地に居る理由>



 バハルス帝国皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下との会見は続く。


 神楽を舞い終わった私が元の席につくのにあわせて、陛下やロクシーさん、そしてシャイナが元の席についた。

 「どうぞ」

 と同時にメイドさんが私の前につめたい飲み物を置き、汗をぬぐう為のハンカチのようなものを差し出してくれる。

 ん?  ああ、そう言えばこの国にはおしぼりは無かったんだっけ。

 「ありがとう」

  そのハンカチを見て少し不思議に思った後、その事に気が付いて一人納得した私はそうメイドさんに言いながらにっこりと微笑み、そして隣でなにやらごそごそとやっている気配がするシャイナにほうへと目を向ける。
 するとシャイナは腰のポーチから何かを出そうとしたけど、メイドさんが私にハンカチを渡したのを見てその行為をやめたようで、私に苦笑いを向けながらその手をポーチから離していた。

 ああなるほど。
 ヨウコ達がいないこの状況では、私が神楽でかいた汗を拭くおしぼりを出すのはシャイナの役目だと思ったのね。
 これがヨウコたちならばきっと、おしぼりは私が席についた時にはすでに私の席の前にセッティングされていたことだろう。
 それを知っているシャイナだからこその苦笑いなんだと思う。

 でもシャイナにそこまで求める気がない私は「気にしないで良いよ」とばかりににっこりと微笑んでおいた。
 フレイバーテキストのメイド設定のおかげで初めからできるヨウコたちと違って、こればっかりは経験を積まないとできないだろうからね。

 それにシャイナの立場は都市国家イングウェンザーの6貴族の内の一人と言う事になっているのだから、そんな事をそつなくこなしていたらこの迎賓館のメイドさんたちが後で怒られてしまいそうだもの、気が効かなかった今の状況の方が良かったんじゃないかしら?

 さて、私が出されたハンカチで汗を拭き、冷たい飲み物でのどを潤して一息ついたところで会談は再開された。

 「アルフィン殿、よいものを見せていただき礼を言う。ところで先程から先代と言う方がよく会話に登場していたようだ。それは巫女の先代と私は理解していたのだが、それであっているか? それとも女王の先代の事なのだろうか?」

 「先代ですか? その両方です。我が国は巫女に付く者が女王、正確には支配者と言う立場になるのです」

 「因みに先代はアルフィンの母親で、癒しの貴族家当主の奥様でもあるのですよ」

 皇帝陛下の質問に私が答えると、シャイナがすかさず補足の設定説明をした。
 これも予め決められていた内容で、支配者であるはずの私がなぜこの国に居ても問題がないのかの理由付けの一つでもあるのよね。

 「・・・そうなのですが。ではアルフィン様のお母様はすでに他界されているのでしょうか? もしそうなら、この話は・・・」

 「ああいえ、私の両親は共に健在ですよ。そうで無ければ私がこの様なところに出向く事などできませんでしたでしょうから」

 「と言うと、ご両親は国に?」

 ちょっと想定とは外れた流れだったけど、私がこの国に居続けられる理由の説明がしやすい流れになったわね。
 まぁ聞かれなければ話す気は無かったんだけど、もし誰にも話さないと何時までも私がここに居ても問題がない理由が付かなくなってしまうから、この会談で話が出なければカロッサさんに不自然な形で話さなくてはならなくなっただろうから、そういう意味では正直助かった思いはある。

 「はい。両親は他の5家の方たちと共に国で政(まつりごと)を行っています。巫女は先代が亡くなった時に代替わりするのではなく私の一族からその時最も癒しの力が強い女性がその地位に付く事になるので、今回は私がすでに先代の癒しの力を上回った為にこの歳で巫女の地位に付いていると言うわけです」

 「補足説明をさせて頂くと、巫女はその殆どが癒しを司る貴族であるアルフィンの家の直系から出るのですが、極まれにその親戚筋に癒しの力が特出した者が生まれる事もございます。その時は赤子の内に本家に養子に出され、巫女候補となります」

 すっかり補足係になっているシャイナが私の言葉に続いてくれたんだけど、残念ながら皇帝陛下の興味は私が若くして巫女の地位に着いた理由ではなく政治の話の方に向いたらしくて、その話を此方に振ってきた。

 「政? と言う事は国の運営は6家の貴族が行っていると言う事なのか?」

 説明説明っと。
 私は頭の中で、みんなで話し合いながら積み上げてきた設定を思い出して言葉をつむいで行く。

 「そうです。実の所、私のついている支配者というのは身分であって地位ではありません。それに巫女の修行やクリエイトマジックの習得に時間を取られていた私は政治的なことに関してはまだ勉強中ですので、父や母相手に口出しできる立場にもありません。そして何より私は国元に許婚がおりまして、結婚後、私は巫女に専念する事になり政治関係は旦那様になられるその方が仕切る事になると思うので、なおさら口を出す立場にはないのですよ」

 「それは支配者という役柄が与えられているだけで、政治的な力は持っていないということかな?」

 そんな皇帝陛下の言葉に私は微笑みながら頷き、補足説明を続ける。
 これはちゃんと話しておきたい内容だからね。

 「6貴族の一員である以上、政治的な力がまったくないと言うわけではありませんが、それを言ったら各家の子女であるイングウェンザー城に居る5人は皆同じ立場なので私だけが特別と言うわけではありません。ですからそうお考えになられても差し支えはないと思います」

 因みに5人と言ったのはアルフィスが入ってないから。
 異形種のハイ・マーマンである彼は、この世界では外に出ることができないから本国に居る許婚という設定になっている。
 そんな彼を城に居る貴族の一人に入れてしまうと、もしかしたら後々6人目をでっち上げるなんて面倒なことになりかねないからイングウェンザー城には6貴族の内、女性の5人しか居ないと言う事にしたのよ。

 「そもそも神聖国家である都市国家イングウェンザーは神に仕える巫女を頂点とし、その下に6貴族がいると言う形態をとっていて、私がついている巫女という地位は神事を行うとき以外は国ではあまり仕事がありません。ですから女性であり、政治にあまり口を出す権利を持たない私を含む5人は、このように長期間国を離れていてもそれ程問題がないのですよ」

 「なるほど。しかし神事か、では先程の神楽は」

 おっ、その裏設定まで踏み込んできたか。
 大丈夫、その辺りもギャリソンと話し合って決めているから問題なし。
 色々と聞かれても答えに窮しないように、細かい設定まで作っておいてあるのよね。

 「はい、神事で行われるものの一つです。都市国家の中央にある大神殿では年に一度、先程舞ったものより長く高位の舞を私と神官たちとで舞うことによって国全体を清め、神にその一年の加護を祈ります」

 「なるほど、だから先程の舞の後、この部屋が清浄な空気に包まれたように感じたのか」

 清浄な空気? ああ、そう言えば神楽の魔法の説明文に場を浄化する事によって一定期間アンデッドを湧かない様にする事ができるというのがあったからその効果を感じたんだろうね。
 因みに神楽の最上位だと再度汚されない限り、その場では一切アンデッドが湧かなくなるらしい。
 らしいと言うのはそう書かれているだけで、ゲーム内でアンデッドが沸く場所には常に呪いの霧が立ち込めるから、その魔法を使っても一定期間で再度呪われてしまうからだったりする。

 「その神事の為、私も年に一度は国元に帰らなければいけないのですよ」

 「年に一度ですか? でもアルフィン様の国はわたくしたちが存じ上げないところを見ると、ここからかなり離れた場所にあるのでしょう。移動にはかなりの時間を有するのではないですか?」

 ついに来た。
 そう思いながら、私はロクシーさんの言葉を否定する。

 「いえ、そんな事はありません」

 ここはある意味正念場だ。
 私はここである一つの虚偽事実を公表するつもりでいる。
 これ、場合によっては公表する事により問題が生じるかもしれないけど、これを言っておかないと私たちの生活がどのように成り立っているのか説明できなくなりそうだから、危険を承知で話す事にしようとみんなで話し合った結果決めた事なんだ。

 「私の国はロクシー様がご指摘の通り、ここより遥か遠くにあります。ですから普通に移動してはたどり着くのに1年以上掛かるでしょう。しかし私たちには移動手段があるのです」

 「1年以上もの時間が掛かる距離を移動する手段・・・ですか? それはどのようなものか、お聞きしても?」

 私の言葉に皇帝エル=ニクス陛下の視線がするどくなる。
 それはそうだろう、長距離を移動する方法はこの世界では限られているのだから。

 ギャリソンが調べた限りでは皇帝陛下でさえ馬車で移動しているらしいから、空を飛ぶ飛行機や飛行船でさえこの世界ではまだ実現できていないんじゃないかなぁ? それだけにその技術は、この世界のあり方を変えかねないのだから。

 「ここまで話しておいて秘密と言っても通るものではないでしょうからお話します。その方法は簡単です。私たちは転移を行える魔道具を持っているのです。とは言ってもそれを使ってどこへでも行けると言うわけではありませんが」

 私はそう言うと目の前にあるカップを手に取り、少し冷めたお茶で渇いた口を潤す。
 そして再度目を皇帝陛下に向けなおして、説明の続きする。

 「転移の方法は簡単です。予め設置した魔道具で二点間をつなぎ、門を開く事によって移動します。ただ、私の城から直接我が国へ跳べるわけではありません。それほどの長距離を飛ぶほどの力はありませんもの。ですから途中の中継ポイントを通り、都合3回の転移で国にたどり着く事になります」

 「その転移の魔道具ですが、大人数を一度に運べるのですか?」

 「いえ、一度にそれ程大人数が移動する事はできません。それ程の魔力を得る方法がないのです。一度の使用で飛べる人数は6人ほどが限度でしょう。そして一度使えば数日間は魔力を籠めるのに要しますからそれ程使い勝手の良いものではないのです。しかし、その使い勝手の悪さにも一つ利点がありまして」

 「利点、と言うと?」

 「使わない時に魔力を抜いておきさえすれば、悪用されないと言う事です。そして仮に片方の魔道具に魔力を注いだとしても、もう片方が空ならば転移はできません。転移の魔道具というのは諸刃の剣で、賊を一気に我が城や国に招きかねない危険なものでもあるのです。しかし現在私の城にある魔道具には魔力を溜めていません。ですからこの転移の魔道具を我が城に置いても私たちは安心して暮らす事ができるのですよ」

 どこへでも飛べる訳ではない、これ大事。
 飛べる二点双方に魔道具設置が必要で、その双方に魔力が充填されていないと飛ぶ事ができない、これも大事。
 この二つがある事によって脅威ではないと印象付けないといけないからね。
 あっそうそう、これも言っておかないと。

 「これとは別に短距離を飛ぶ道具もあるのですが、これも二点間をつなぐものですが此方は魔法の充填を必要としません。しかし一度に一人ずつしか転移する事ができない制限がある上に大変壊れやすいので、どこでも設置できるわけではありません。おまけに作るのにかなりのお金と時間、それに希少な物質が必要な為、私たちの緊急脱出用に設置してある分とそれが機能しない時の緊急用しかないので、防犯上お見せできないのですけどね」

 「壊れやすいか。ふむ、それは脱出した際、片方を壊す事により賊が追って来られないようにわざとそうしているのでは?」

 「ご慧眼、恐れ入ります」

 確かに転移門の鏡は片方を割ればもう片方から飛ぶ事はできなくなる。
 ギルドホームなどの転移不可の場所でもこのアイテムは使える所を見ると、これは本来そういう使い方をする事を想定して作られたものなんだろうと私も考えているのよね。
 私たちのギルドでは攻められた事がないからそんな場に直面した事ないけど。

 「ところで先程の長距離転移の魔道具は、簡単に持ち運びはできるのか?」

 「いえ、設置型なので魔道具を持ちこみ、大型の魔法陣を書くなど設置作業をしてから双方の魔道具をリンクさせて初めて使える物なのでそう簡単にはいきません。我が城の転移魔法陣も城ができてから1週間後にやっと開通したくらいですから」
 
 そんな私の説明を難しそうな顔で聞いている皇帝陛下の横で、ロクシーさんはなにやら考え事をしていた。
 そしてその考え事が纏まったのか、彼女は私にこう切り出してきたの。

 「アルフィン様、一つお伺いしても宜しいでしょうか?」

 「はい、なんでしょうか? 私に答えられることでしたらよろしいのですけど」

 とりあえず何を質問されても良いように考えてはあるけど、思わぬ説明が来たら困るからと私はちょっとだけ身構える。

 「はい、転移の魔道具は使うのが大変だと言うのは解りました。ただ一つ疑問があるのです。アルフィン様のお城を作るのに使用した資材やアルフィン様がお持ちになられた食材はどのようにして運ばれたのでしょう? 聞くところによるとワインなどのお酒もあるとのことですから此方に来てから収穫されたり調達されたわけではないと思うのですが?」

 「そこに気づかれてしまいましたか」

 これに関しても一応理由を用意はしてある。
 でも、できたらこれは話したくなかったんだよなぁ。

 「実を言うと、生き物でなければ転移を行うのはそれ程難しくはないのです。そして魔力もそれ程必要としません。ですから物資だけを送る事ができる、専用の長距離用転移魔道具も存在するのです」

 「物資だけをですか? それはどれほどの量をですの?」

 「そこは我が国の機密になるのでご容赦ください。この物質転移は我が国独自の魔道具なので」

 と、私のその一言に喰い付いて来る人が居た、皇帝陛下である。

 「物質転移が都市国家イングウェンザー独自の物と言う事は、他の魔道具は他国も持っているということか?」

 「えっ? あっはい、転移の魔道具自体は私の国がある周辺ではそれ程珍しいものではありません。どのようにして実現したのか我が国の魔道技術では解明出来ていませんが、魔道大国では各都市をつなぐ常に使える移動手段として転移門を設置している所さえありましたから」

 実際ユグドラシルでは都市間の移動は魔道ゲートで行われていたから、これは嘘ではない。
 どうやって実現しているのかも本当に解らないしね。

 そんな私の言葉を皇帝陛下は眉間にしわを寄せて聞いていた。
 う〜ん、私の今の説明に何か問題でもあったのかな? そんな事を考えて彼のことを見ていると、陛下は重苦しい口調で口を開いた。

 「常時転移移動が出来る技術を持つ国がある、と言う事はいずれ我が国に攻め込んでくる可能性もあるということか?」

 あっそう言えば、そうも考えられるのか。
 でも、その疑問や不安を何時までもそのままにしておくのは得策じゃないよね、だってその不安を解消する方法はただ一つ、私の城にあるという転移魔道具を使って偵察をするしかないのだから。

 それはできない相談だから、ここはきっぱりと否定しておく。
 
 「それは無いと思います。あちらはあちらで大国同士がにらみ合っていますから、これ程遠くの国にまで手を出す余裕はありません。それにこう申し上げると大変失礼にあたるかもしれませんが、この国周辺に兵を寄越して占領したとしても、彼の大国からすればあまり利はありませんから」

 「利がない、だと?」

 イタイイタイ、視線が痛い。
 でも事実なんだし、しょうがないじゃないの。
 皇帝陛下の射殺すような視線にちょっとだけ怯みながらも、私は考えていることを正直に話す。

 「この国はアダマンタイトやオリハルコンどころか、ミスリル銀でさえあまり取れないのですから鉱石の発掘場所としての魅力はありません。それに作物も特に変わったものがあるわけではないので農業従事者の技術を得る為の侵略も無いでしょう。そして最も価値があるであろう土地と人ですが、これだけ離れていてはそれこそ意味がありません。管理をするのはもちろん、労働力として移動させることもできませんからね。ですから利がないと申し上げたのです」

 アダマンタイトみたいなやわらかくてあまり価値のない金属でさえ殆ど出回ってないんだもん、ユグドラシルと言う場所が現実にあったとして、そこに住む人たちがわざわざ遠出をしてこの国に攻め込むかと言えばそれはありえないんじゃないかな? 費用ばかり掛かって得られるのはPOPモンスター以下の労働力しかないんだから。

 そんな事を考えながら、自分の言葉にあっけに取られたような顔をしているジルクニフに微笑みかけるアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 本当に、かなり失礼な事言ってますね。
 ジルクニフ、怒り出さないと良いのですが。

 聞かれなかったので話してはいませんが、城にいる者の殆どは転移の魔道具ではなくゴーレム馬車を使ってイングウェンザー城にたどり着いたという設定も作ってありました。
 何せ休む必要がない上に御者無しでも100キロ以上で目的地まで自動的に走らせる事ができる馬車ですから大陸横断でもそれほど時間は掛からないですからね

 因みに今回の説明は全てでっち上げで、そんな事実も設定もありません。
 あくまでアルフィンたちが話し合ってこうしようと決めた事ですからユグドラシルとはまったく関係ありません。
 まぁ、本編のアルフィンの心の声にあるとおり、ユグドラシルで町をつなぐ交通手段が転移門だったというところだけは事実ですけどね。


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